研究内容
1. オリジナル分子を活用した創薬研究

タンパク質間相互作用(PPI)は、細胞内外での多くの生命現象を制御しており、創薬において魅力的な標的とされています。しかし、PPIは広くて平坦な分子界面を持つため、従来の低分子医薬ではその阻害が困難であり、有効な阻害剤の開発が難しいとされてきました。こうした課題に対し、近年注目されているのが「中分子ペプチド」です。ペプチドは比較的大きく柔軟な構造を持つため、PPIのような広い結合面に高い親和性で結合できるという利点があります。これにより、PPIを標的とする新たな創薬モダリティとして期待されています。私たちは、独自に開発した合成手法や分子を基盤として、創薬研究を推進しています。特に、天然には存在しない非天然アミノ酸を用いた中分子ペプチドの設計と合成に重点を置き、PPIを効率的に阻害するペプチドを探索しています。現在は、さまざまな分野の研究者の方々と連携しながら、生物活性の高いオリジナル分子の創製と、その医薬応用に向けた研究開発を進めています。
また私たちは、通常の水素原子を重水素(D)に置き換える「重水素化医薬品」のための新たな合成手法の開発にも取り組んでいます。重水素は水素と非常によく似た性質を持ちながら、代謝速度を抑制する効果があるため、重水素化によって薬物の安定性が向上し、投与量の削減や副作用の軽減が期待できることから、近年大きな注目を集めています。私たちは、これまで技術的に困難とされてきたピンポイントでの重水素導入を可能とする新しい手法を確立し、より精密かつ実用的な重水素化医薬品の開発を目指しています。
このように私たちは、有機合成化学を基盤としたボトムアップ型のアプローチで創薬研究を推進しています。独自に設計・合成した分子を通じて、これまでにない新しい医薬品の創出に貢献したいと考えています。
2. ラジカルを活用した反応開発
ラジカル反応は、一般に反応速度が速く、さらに立体障害の影響を受けにくいという特長を持つことから、アニオン反応やカチオン反応では合成が困難な分子構造の構築にも適した手法として注目されています。しかし、これを触媒的に制御しながら進行させる場合、副反応としてホモカップリングや望ましくない連鎖反応が併発しやすく、目的とする生成物を高い選択性で得ることが難しいという課題があります。私たちは、炭素ラジカルや窒素ラジカルを触媒的に制御し、有用な分子変換反応を実現するための研究を進めています。このような独自のラジカル反応を活用して、面白い機能を持つ分子の創出に貢献したいと考えています。